ほとんどの家庭にとって、光熱費は経常的かつ高額な支出です。光熱費は、寒さが到来する冬の間にピークに達します。米国エネルギー情報局は、エネルギー小売価格の上昇により、2022年の冬には家庭の電力コストが数年ぶりの高騰を迎えるとの予測を行いました。
住宅所有者がこの値上がりに対抗するための方法として、次の2つが挙げられます。一枚余計に羽織って設定温度を下げるか、あるいは家庭内の熱損失を最小限に抑えるための手段を講じるかです。断熱性の向上は長期的に大幅な節約につながる可能性があることから、2番目の選択肢がますます人気を高めています。
熱損失を減らすための最初の一歩は、その原因の把握です。住宅の築年数や立地によって事情は異なってくるものの、一般的には外壁、窓、屋根が主な原因です。では、自宅から不必要な形で熱とお金が逃げて行っているかどうかを、どうすれば見極められるのでしょうか。
ミネソタ州ウォーレンのある取り組みでは、ドローンと上空からの熱検査が解決策の中心となり得ることが示されています。
ウォーレンはミネソタ州北部の小都市です。冬の寒さは極めて厳しいものの、住民にはエネルギー面での大きな利点が1つあります。市が公益事業のすべてを所有し、管理しているのです。この構造は、地元行政とコミュニティに対して、暖房コストを削減し、すべての住宅と建築物を可能な限り効率化するためのインセンティブが働くことを意味します。
近隣のNorthland Community and Technical Collegeの協力を得て、ウォーレン市は2017年にエネルギーに関する取り組みを開始しました。無人航空機システムと画像解析を研究するNorthlandの航空宇宙学部の学生には、市全体の熱をマッピングする任務が割り当てられました。このパートナーシップはウィンウィンの関係です。学生たちが、台頭しつつあるドローン業界での実践経験を積む一方で、市としては地元の建造物から熱が失われる仕組みを示す航空データが手に入るのです。
ウォーレンの全建築物の熱がマッピングされているため、住民は市役所で自宅の熱損失の現況を確認することができます。「それにより、住民はエネルギーとコストを最大限に削減できる決定を下せるのです」と、ウォーレン市当局のShannon Mortenson氏はLocal Energy Rules Podcastで話しました。
サーマルスキャンは、熱損失を明確化し、断熱材の追加または完全な入れ替えが必要な箇所(通常は屋根、壁、窓、ドア)を特定します。その目的は、調査結果とあわせて、包括融資プログラムの利用案内を提供することです。このプログラムにより、住民は、市からエネルギー効率改善のための融資を受けることができます。融資は普段の公共料金の支払い額に上乗せされて少しずつ返済が行われ、完済後は浮いた分が住宅所有者の手元に残ることになります。
Mortenson氏にとって、このプロジェクトは市と住民に力を与えるものとなっています。「市側としては、コミュニティ全体でのエネルギー損失と、どこでその損失が発生しているのかをはっきりと掴むことができます。(これを活用して)さらなる効率化を実現し、よりよい管理者となり、気候変動を緩和し、コミュニティの持続可能性を高める方法がわかりました。」
Zackary Nicklin氏は、Northland Community & Technical CollegeでUASプログラムを率いる無人航空機システムの講師です。氏は、同校でのUASのミニ学位で重要な部分を占めるのが実践的なトレーニングだと話します。2017年、学生たちがウォーレン市の熱データを収集できるという機会が訪れました。M210 RTK、Inspire 2、Zenmuse XTサーマルセンサー、Zenmuse XTRサーマルセンサーなどのDJI Enterpriseの機体およびセンサーを多数含むノースランドフリートを機能させることは、重要な教育メカニズムとなっています。
他のパイロットプロジェクトと同様、そこでは急激な学習曲線が見られました。有用な熱データを収集するには、学生たちは冬の間に飛行させる必要があると見込まれていました。住民が自宅で活発に暖房をきかせ、屋外と屋内の気温が最も顕著となる時期です。しかし、すぐに他の要因による影響が明らかとなりました。サーマルスキャンは11月に開始されたものの、低温と時折の強風により、ドローンのバッテリー効率が低下したのです。また、日没直後は、日中の余熱が放散されるのにさらなる時間が必要でした。
Nicklin氏は、氷点下の環境の下、風のない夜に(時には午前2時まで)スキャンを行うことにしました。生徒たちは、身体が冷えすぎるか、対象区画の作業を完了するまで飛ばし続けました。
マッピングプロセスの多くはおなじみの内容です。たとえば、チームはグリッドパターンに取り組みました。背の高い物体を避けられるよう離陸前に各エリアを偵察し、飛行はPix4Dを使用して計画および実行されました。また、厳寒の低温下での飛行となった結果、通常とは異なる点もいくつかありました。ミネソタ州の強烈な寒さのただ中、午前2時というのは、VLOSを維持するために移動しなければならないと愚痴を言うドローンパイロットなどいないはずの時間帯です。
バッテリーにも細心の注意が必要でした。フル充電されたバッテリーは、温度管理のためにクーラーボックスに入れるか、暖房をきかせたトラックに残されました。チームが頼りにするデバイスも天候の影響を受けました。タブレットが反応しなくなるのを防ぐため、タブレットの背面に発熱パッドをテープで貼り付けました。また、手がかじかまないようにしながらコントロールスティックを繊細に操作し、画面をタップするため、ハンドウォーマーと指なし手袋の組み合わせも必須でした。離陸直後、バッテリーを温め、カメラセンサーを周囲の温度に適応させるために、ドローンを数分間ホバリングさせる必要がありました。
取り組みの第2段階では、学生たちは画像をつなぎ合わせ、そこにGISマップを重ね合わせました。各建造物の写真と、それぞれの熱損失を反映したサーマルシグネチャを組み合わせることで、学生たちは建物の築年数と熱の漏出量との相関関係の割り出しに成功しました。
独自で熱のマッピングに取り組もうとされているのなら、高性能で耐久性に優れ、エネルギー効率が良く、赤外線ペイロードとの互換性を備えたドローンが必須となります。熱データの大規模な取得には、以下の2機体がお勧めです。
Mavic 3T は、高解像度のサーマル カメラと可視光カメラを備えた DJI の最小サーマル マッピング ソリューションです。 640×512 ピクセルの赤外線センサーは、センチメートルレベルの RTK 測位と組み合わせて、正確なサーマル マッピング ミッションを実現します。 この航空機は展開が早く、飛行が簡単で、軽量で、最大 45 分の飛行時間を提供します。
Matrice 30T は、パワーと携帯性の完璧なバランスを実現しています。 フラッグシップレベルのカメラ性能と、期待される耐候性、環境適応性をコンパクトな機体に搭載しています。
Matrice 300はDJIの産業向け主力プラットフォームです。厳しい環境や気象条件下での動作が可能となっています。55分間の飛行時間、6方向の障害物検知、DJIの最先端のペイロードオプションとの互換性を備えたこの頑丈な機体は、決して期待を裏切りません。またH20Tは、20 MPズームカメラ、12 MPワイドカメラ、1200 mレーザーレンジファインダー、640×512 pxサーマルカメラを備えたマルチセンサーペイロードです。過酷な条件下での熱マッピングのミッションに最適です。
ウォーレン市の熱マッピングの取り組みは、ドローン技術がいかにしてコミュニティに力を与え、エネルギー効率をめぐる意思決定に役立つのかを示す、完璧な実例です。もちろん、このプロジェクトは、市が所有する公益事業と、UASの実体験を必要とする学生であふれる近隣のカレッジがあったことで円滑に進みました。しかしだからといって、そこでの核心的な要素が世界中のコミュニティで再現不可能だというわけではありません。
実際、このプロジェクトも、ウォーレン市がClimate Smart Cities Partnershipに参加したことがきっかけとなったのです。同様のマッピングミッションが(ウォーレンのパートナー都市である)ドイツのアルンスベルクでも実施され、両者での結果の比較が行われました。
エネルギーの持続可能性はかつてないほど重要になっており、熱のマッピングは、環境への取り組みを支え、地球に優しい未来の基盤を築くうえでのドローンの活用方法の1つにすぎません。さらに示唆に富み、環境を意識したドローンの用途については、いかにしてドローンが世界を救うのかをご覧ください。