「ドローンが当たり前に飛び交う社会の実現」。そんなミッションを2014年の創立から掲げるのが、株式会社CLUE(クルー)だ。同社は、ドローンで屋根点検を行うアプリ「DroneRoofer(ドローンルーファー)」を開発し、ソリューションとして提供している。同社の執行役員である榊原知也氏に、DroneRooferの開発の背景を聞いた。
「きっかけは、とある屋根工事業者の方から送られてきた一通のメッセージでした。そこには、屋根工事業界が抱える問題が記されていました。具体的には、屋根から落下しての怪我のリスク、最悪の場合には死に至ること、そして安全に上り下りするための足場の設置には膨大なコストが掛かることなどです。それをドローンの力で何とかできないだろうか、ぜひ協力してほしいという想いが綴られていました。そこでCLUEでは屋根工事業者の皆様と一緒に、開発を行うことを決めました。CLUEで開発したアプリケーションを、ユーザーとなる皆様にデモをしてフィードバックをもらうというプロセスを何度も繰り返し、ブラッシュアップして完成したのがDroneRooferです」
Phantom 4シリーズとDroneRooferを使った屋根点検現場
DroneRooferは、ボタンタップでドローンが自動で上昇し、撮影する仕組みを持つアプリだ。そのため、通常のドローンの操縦のような送信機の操作が不要になり、誰でも屋根全体の写真を撮ることが可能になっている。撮った写真はすぐにタブレットで確認できる。
CLUEが提供しているのは、単にアプリにとどまらない。パッケージとしてアプリ以外に、ドローン一式、iPad、保険、飛行許可申請代行、導入支援およびアフターサポートまでを一括して提供している。
「ご連絡いただいた屋根工事業者の方と、ドローンで何ができるのか、現場でどのように扱うのか、といった議論をする中で、専門のドローンパイロットを派遣するような方法では課題の解決が難しいと判断しました。ドローンを誰でも安全に使えるようにするということを意識して決めていった結果が、DroneRooferのパッケージなのです」
DJI製品の実績と流通の豊富さ
そのDroneRooferのハードウェアおよびソフトウェアとして選ばれたのが、DJI製品だ。DJIを選んだのはどういう理由からなのか、榊原氏に聞いてみた。
「CLUEでは、以前からMatriceシリーズなどの機体を使ってドローンの遠隔操作を行うシステムを通信会社と共同開発していました。そのため、エンジニアがDJIのSDKを使う知見をすでに持っていたという背景があります。ただ、DJIを選んだ理由はそれだけではなく、私たちが重要視したのはドローンの機体としての実績が豊富なことです。ドローンはまだまだ発展途上な部分がある技術です。天候など外部要因も含めてさまざまな要因に対応できるかは、いかに多くの飛行実績があるかに依存すると考えています。そのため、現在市場に最も多く流通し、利用されているDJI製のドローンなら、情報が収集しやすくなります。それらがポイントとなって採用しました」
実際のドローンのアプリ開発においては、どのような課題があったのだろうか。
「ドローンのソフトウェア開発は考慮すべき要因が多数あります。機種やファームウェアのバージョンといったドローンのハードウェアに付随する諸条件、さらに天候など外部環境による要因が入ってくるため、Webサービスなどのソフトウェア開発とは一線を画したものとなり、難易度は非常に高くなります。
こうした要因に加えて、品質を担保するためには実際の飛行テストが不可欠となります。シミュレーターで正常に動いていても、野外で実際に飛ばしたら想定外のことの連続なのです。例えば、開発初期の段階で、まっすぐ上昇しないという問題が起こりました。シミュレーターだと垂直に上がっているのですが、実際に外で飛ばしてみると、斜めになってしまう。それは風の影響だったり、GPSの影響だったり、さまざまな原因が考えられます。それらの原因に応じてきちんと飛ぶような制御を組み込む工程を、一個一個地道に積み重ねてテストを行ってきました。
単にデスクに座ってプログラミングをするだけではなく、ドローンが飛行する原理から原因を追求し、飛行テストと修正を繰り返して問題を解決していくのは非常に大変でした。なので、プロダクトのリリースまでこぎつけたときの喜びはひとしおでした」
一方で、こうした苦労こそがCLUEの強みだと榊原氏は語る。
「裏を返すと、飛ばしてみないとわからないような課題を解決するスキルがあり、もしユーザーが使う中でそういった問題が発生した場合もアプリケーションでフォローしていけること。これがDroneRoofer、ひいてはCLUEの強みと言えます」
このようなハードウェアとソフトウェアを組み合わせた開発は、榊原氏の経歴とリンクするところがあったということだ。
「実は、前職ではWebサービスやスマートフォン向けアプリの開発を担当していて、その中で業界最大手のモバイルPOSレジアプリ開発にプロジェクトマネージャーとして従事していました。POSレジアプリはiPadを使っていて、キャッシュドロアーやレシートプリンターなどのハードと連携する部分もあったので、その際の経験がDroneRooferの開発にも生きていると思います」
DroneRoofer以前からDJIのSDKに通じていたというCLUEだが、DJIのSDKを使った開発で役に立った情報源はどこなのだろうか。
「ドローンのソフトウェアエンジニアリング自体が、まだ未開拓な領域なので、とにかく自分で調べることになります。その中でも役に立ったのが、やはりDJIの開発者サイトにあるフォーラムですね。問題解決の起点としてフォーラムを検索し、それで解決することもありましたし、そこで得た情報を基に仮説を立てて検証することで解決するという場合もありました」
苦労の末、2017年11月にリリースされたDroneRooferだが、実際のユーザーである屋根工事業の方々からはどんな評価を得ているのだろうか。
「ユーザー様からするとそのお客様にあたる施主様との関係性が最も重要なんです。DroneRooferで屋根の画像を見せながら説明すると明らかに納得感が違い、信頼度が増しているのを実感すると言われます。それを、難しい操縦することなく、簡単な操作で実現できていることでさらに評価をいただいています」
DroneRooferのリリースを成し遂げた榊原氏に、ドローンでビジネスを行っていく上でどのようなスキルや人材が求められるかを聞いてみた。
「これはドローンには限らないのかとも思いますが、正しくプロダクトマーケットフィットさせるのが大事だと思うので、さまざまな意見を聞いた上で、課題が何かを正確に抽出する人は必要になります。また、これまでの世の中にないものを作って売ることになるので、お客様も含めて、開発の仲間になっていただく体制作りも必要になると思います。そのためには、一緒に新しい産業を作っていこう、従来のモデルを変えていこう、産業自体をよくしていこうといったパッションを持つ仲間が重要になります」
最後に、今後のDroneRooferとCLUEの展望について、聞かせてもらった。
「現在はDroneRooferを作ってみて、屋根工事業界にどうやって普及していくかというフェーズです。これは1本目の柱として、まず推し進めていきます。その一方で、さらに他の業界でも、ドローンで解決できるのではないか、という課題を発見して掘り下げ、次の柱にしていきたいと考えています。そうした柱を何本も立てていくことで、それぞれの業界でドローンが飛ぶようになっていき、都市部でも地方でも毎日飛んでいるのを目にするのが当たり前になってくるはずです。
正直、何が正解か、われわれもわかっていません。なぜならまだどこにもない課題だからです。ただ、それを一個ずつ見つけて、DroneRooferのように解決していくことを繰り返していくと、われわれの目指す『ドローンが当たり前に飛び交う社会』にきっと近づいていくはずです」
株式会社CLUE 執行役員 榊原知也氏
DroneRoofer紹介ページ
https://service.drone-roofer.com/
DroneRoofer導入事例