エネルギア・コミュニケーションズ(略称: エネコム)は、主に中国地方を基盤として、地域に根差した情報通信事業を展開している会社である。同社は、2015年度からドローン関連事業を本格的に開始し、現在は、培ってきた経験と知識を活用して機体の販売から操縦訓練などの教育、空撮、さらには撮影した画像の解析および業務利用支援を展開している。
エネルギア・コミュニケーションズ 事業戦略部の佐藤 靖 氏は「現在、ドローンとAI、画像解析を組み合わせた新しいソリューションを開発することを使命としております」と話す。そのための実証実験の場となったのが、高さ226メートルの日本一高い送電鉄塔に架けられた送電線、大三島支線だ。
「現在、通常の送電線の外観点検は、ヘリコプターからの目視やカメラによる撮影と、地上や鉄塔からの作業員による目視によって行われています。こうした方法は、コストが大幅にかかり、点検したいときにすぐにできず、即応性に欠けます。さらに、確認不足の箇所が残ってしまったり、エビデンスが残せず前回点検との比較が作業員の経験頼りになってしまうなどの課題もありました」
そうした課題の解決に取り組むため、大三島支線の送電線表面の近接撮影がドローンで可能かを判断する実証実験を、エネコムと、大三島支線を管理する一般送配電事業者である中国電力ネットワーク株式会社、DJI JAPANの3社共同で行った。
ドローンとAI、画像解析を組み合わせたソリューション開発に取り組む、エネルギア・コミュニケーションズ 経営戦略本部 事業戦略部 佐藤 靖 マネージャー。
実証実験の内容は、海峡を横断している太さ35mmの送電線を鉄塔から1.2kmの範囲で撮影するというものだ。
「実は今回の実証実験以前から、大三島支線の海峡横断部ではMatrice 210などを使って点検していました。船の上からドローンを飛ばし、撮影後、船に降ろすという操作をマニュアルで行っていました。しかし、この方法は操縦の難易度が高いため、ほかの手段を模索していたのです」
実務で点検を行う送電線の総延長距離を想定すると、マニュアル飛行ではコストも時間も膨大になってしまう。そのため、パイロットの力量に依存しない自動飛行が必須となる。
実証実験の機体選定では、①自動飛行の性能、②作業の効率性と再現性、③撮影データの画質、そして④トータルのコスト、という4つのポイントが挙げられていたという。
「①の自動飛行については、当然ながら高い安全性が求められます。②の効率性については、準備を含めて実際の撮影データの取得までにかかった時間、いわゆるリードタイムなどを重視しました。また、誰でも作業を繰り返し同じように再現できることも重要な点です。③は、撮影したデータを使って点検を行うには、高画質の画像が必要となります。④のコストについては、フライトの作業効率に加え、機器の定期的なメンテナンス・安全点検、操縦者の教育も含めた総合的な判断となります」
以上のような条件を検討した結果、専用の機体の開発ではなく市販されている機器から選定することが基本方針となり、最終的に選ばれたのがDJIのMatrice 300 RTKだった。Matrice 300 RTKは最大飛行時間55分を誇り、高い伝送性能で安定した飛行を可能としている。またペイロードにはZenmuse H20Tが採用された*1。光学23倍ズームレンズと2000万画素の撮像センサーを搭載したカメラユニットである点が選定のポイントとなった。
実証実験の機体に選定されたMatrice 300 RTKとZenmuse H20Tの組み合わせ。安全で精度の高い自動飛行が可能な点と高解像度な画像が得られる点が評価された。
実証実験は、まず自動飛行の要となる飛行経路の作成から始まった。安全な飛行経路の作成のため、事前フライトで取得したデータを用意し、マッピング・ソフトウェア「DJI Terra」を活用した。こうしたソフトウェアの組み合わせとしての効率性も評価基準となった。
実証実験のフライト本番では、RTKを使って正確な位置情報を取得することによって、飛行経路どおりに非常に安定した撮影を安全に行うことができた。送電線を効率良く撮影していくためには、送電線と並行して安定した速度でドローンを飛行させることが求められる。Matrice 300 RTKの自動飛行性能は、そうした要件をクリアした。
実証実験では想定していた以上に目的が達成されたと佐藤氏は言う。「評価項目の1つであったリードタイムは、従来の方法と比較して大幅に短くすることができました。また、現場ですぐに撮影データを確認し、送電線の問題がありそうな箇所を再撮影するということまでスムーズに行えました」
実験に参加した中国電力ネットワーク 東広島ネットワークセンター 衣笠氏は次のように話す。「今回撮影した送電線は海峡を横断しているということもあり、風の影響も課題でした。しかし実験では、少々の風が吹いても安定した結果が得られました。撮影した送電線の画像は、解像度も十分高く、実用を期待できるものでした」
機体の維持管理に関するサービスの充実度も高い評価のポイント、と佐藤氏は話す。「機体の維持という点では、DJI Care EnterpriseというDJIの産業用製品向けの保証サービスに加入しています。何かトラブルがあった際には、機体の代替品をすぐ手に入れられるという点に魅力を感じています」
衣笠氏はこれからのドローン活用について次のように話した。
「送電線だけでなく、鉄塔自体もこうしたドローンとAIの技術を組み合わせた診断技術が確立されると、さらなる展望が開けると考えています」
最後に、佐藤氏に今後のドローン事業の展望を語ってもらった。
「ドローンによる撮影データを基にして、送電線の異常箇所の自動抽出機能の完成度を高めていくことが当面の目標になります。また、今回の送電線の詳細撮影サービスを全国に展開することはもちろん、ご要望があれば撮影方法を学んでいただく操縦訓練・導入のサービスも展開していきたいです。ドローンを活用したソリューション自体が世の中に広まっていくことを、顧客やDJIの方々と一緒に目指していこうと思います」
中国電力ネットワーク 東広島ネットワークセンター 衣笠 宏文 副所長。ドローンとAIを組み合わせた技術が送電線だけでなく鉄塔の点検にも活用されるのを期待しているとのこと。
エネコムは今後、撮影データを基にして送電線の異常箇所の自動抽出機能の完成度を高めていく。また、送電線の撮影だけでなく、撮影方法の訓練・導入を行うサービスも検討していくとのこと。
*1 H20T搭載時の飛行時間は最大約43分です。