毎年行われるオオカバマダラの渡りは、世界で最も魅力的な自然現象の1つであり、4,000 km以上に及ぶその旅路は、昆虫の中でも最も長く、最大の規模になります。
オオカバマダラの渡りは、カナダ、米国、メキシコの国際協力の象徴です。これら3ヵ国が協力して、カナダ南部の五大湖地帯から米国中西部の平原を通過し、メキシコ中央部のミチョアカン州とメヒコ州の州境に至るオオカバマダラのルートの保護を行っています。
しかしこの渡りが、環境の変化やオオカバマダラの生息地の破壊、繁殖地を脅かす森林伐採によって消滅の危機にさらされています。
これを受けて、オオカバマダラが越冬する生息地と森林の保護を行う組織、Neovolvanic Axis Conservation Fund(新火山活動軸保全基金、FOCEN)が、渡りの現象を守り、支援するためにさまざまな手段を講じて活動しています。これを受けて、Cielito DroneとDJI Enterpriseは提携し、危機に瀕した重要な生息地の保護に不可欠な森林データの収集にドローンを活用することにしました。
オオカバマダラの寿命は通常1ヵ月ですが、8月中旬に現れる「メトシェラ世代」は寿命の長さが異なります。この世代は生殖期間を遅らせて、最長9ヵ月生存できるため、2ヵ月かけて南に移動し、5ヵ月をメキシコで過ごしてから北に戻ることができます。渡りをする蝶たちは、メキシコの越冬地に行ったことがないにもかかわらず、種に備わる独自のレーダー機能によってそこに向かいます。
オオカバマダラはその生涯を通して、生態系に重要な役割を果たしています。植物を餌にする植食昆虫として、幼虫の間はトウワタを餌とし、成虫の期間は重要な受粉者として、花の蜜を吸って過ごします。渡りの際に、身体に付着した花粉を運ぶことで、オオカバマダラは花を咲かせる植物の遺伝的多様性を促し、北米全域の食の安全に貢献しています。
トウワタはオオカバマダラには欠かせない植物で、繁殖期には産卵場所になります。メスのオオカバマダラ1匹で生涯に最大400個もの卵を産み、8日で孵化して黒、白、黄色の縞模様が特徴的な幼虫になります。トウワタの葉を食べた幼虫は蛹になり、2週間後には成虫の蝶となって姿を現します。
世界の生物多様性のリスク状況に関する最大の情報源である国際自然保護連合(IUCN)によって、オオカバマダラは現在、絶滅危惧種に分類されています。これは、過去10年の間に個体数が最大72%にまで減少したためです。
減少は、主に次の2つが原因とされています:
直接的な人間の行動に加え、気候変動が降雨量の減少と気温の上昇をもたらし、森林種が弱体化して枝幹害虫や病気の影響を受けやすくなっています。
特に、オオカバマダラが越冬の住処とするオヤメルモミが、木を白化し落葉させ、死に至らしめる不可解な現象に脅かされています。木々の消滅が続き、重要な生息地を守るための対策がとられないままでいると、オオカバマダラの渡りの現象は永久に失われてしまうかもしれません。
オヤメルの森は、オオカバマダラ生物圏保護区としてユネスコの世界自然遺産に指定されています。オオカバマダラが飛来する場所である指定地域は、エヒード(農業共有地)やコミュニティ、行政機関、市民団体が協力して保護を行っています。確実に保護するために、彼らは越冬地の木々の健康状態について、永続的なモニタリングを行っています。
オオカバマダラ生物圏保護区では、創設以来、従来の方法で森林のモニタリングを行ってきました。ただしこの方法では、エヒードやコミュニティのメンバーが長距離を徒歩で移動し、木々の変化を目視で特定する必要があります。人を寄せつけない過酷な地域では、この方法は非効率的で危険を伴い、対象地域を1日でカバーすることは不可能です。
また、木々の密度、枝数、高さを目視する方法も、人間の視覚能力によって限界があります。さらに、病気に侵された樹木は、樹頭から下に向かって死んでいくため、巨大な樹木では健康状態の判断が困難です。
オオカバマダラが生息する森林の保護を行うFondo de Conservación del Eje Neovolcánico A.C.(新火山活動軸保全基金、FOCEN)のデータによると、植物検疫調査団による、生物圏保護区の中心地域における森林の害虫や病気の早期発見の調査は、年に6回しか実施されていません。これでは、森林を脅威から守るには不十分です。
こうした課題に対処するためにも、森林のモニタリングにドローンを取り入れる方法を確立することが急務です。
国際自然保護連合(IUCN)が、オオカバマダラの渡りを絶滅危機に指定した際、DJI Enterpriseは、Cielito Droneとオオカバマダラ生物圏保護区の機関と共同で、生息地であるメキシコの生態系で発生した損害の原因と程度を判断する研究プロジェクトを立ち上げました。
ドローンの活用には、従来の森林調査方法に勝る多くの利点があります。技術の進歩により、ドローンはますます身近なものとなり、操縦も容易で、専門技術を身につけていない人でも、調査地の難易度を問わず、安全で正確な飛行ミッションを行えるようになりました。ドローンを森林モニタリング活動に取り入れることで、より広い地域の高解像度の画像を取得し、肉眼では見えにくい樹木の健康状態の変化を捉えることが可能になります。
LiDARやフォトグラメトリ用カメラといったマルチスペクトルモニタリングツールやセンサー技術を使用することで、効率的かつ迅速、安全に生態系を分析することができます。
CIELITO Droneは、DJI Enterpriseの機材、特にMavic 3MとLiDAR L1センサーを搭載したMatrice 300 RTKを活用して、保護区の中心地域で調査飛行を行っています。
Mavic 3Mは、緑色、赤色、赤縁、近赤外線を含む45メガピクセルのマルチスペクトル帯域を備えているため、研究チームは植生モニタリングに使用されるスペクトル指標を計算して、森林減少の兆候がある地域を早期に特定することができました。このデータは、緊急の衛生処置を必要とする、活力のない木々の検出に極めて重要なものでした。
ドローンは飛行中、オヤメルの木々の分布に対応する海抜2,800から3,500メートルの高度範囲をカバーしました。Mavic 3Mの地形フォロー機能により、オオカバマダラが越冬する主要な盆地で、地上から一定の高度を維持して飛行させることができました。これにより、最低地域と最高地域の高度差が700メートル近くあったにもかかわらず、飛行中ずっと、信頼性の高い一貫したデータを収集することに成功しています。
研究チームはさらに、Zemuse L1センサー(LiDARセンサー)を搭載したMatrice 300 RTKを使用して、オオカバマダラが飛来する地域の正確な樹木の高さ、樹冠幅、バイオマス量を測定しました。木々が密集して複雑な保護区内の森林環境にもかかわらず、M300とL1は、リアルタイムで壮大なオヤメルの木々の見事な3次元モデルを生成する、総合的な使いやすいソリューションを提供しました。これらの木々は、オオカバマダラの毎年の越冬地になっています。
調査で得られた貴重な情報から、Cielito DroneはUniversidad Michoacana de San Nicolás de Hidalgo(ミチョアカナ デ サン ニコラス デ イダルゴ大学)の科学者たちと協同で、ストレスや死の兆候があるオヤメルの木々を特定し、地理的な位置を把握して定量化する方法の開発に成功しました。
ドローンが収集したデータは、DJI Terraによってインポート/処理され、カスタマイズされたソリューションが、木々の数と健康状態の報告に役立てられています。
モニタリングと保全のワークフローにDJIの技術を取り入れることで、保護区の保全に命がけで取り組むパークレンジャーの事故やリスクを減少させることができます。
また、マルチスペクトルによる高解像度の解析によって、木々の情報を個体レベルで取得することが可能になります。1回の飛行で約200ヘクタールの範囲をカバーできるため、時間、人的資源、経済資源の大幅な削減につながります。これまで6日をかけて行っていた調査が、600%早い1日に短縮されました。
最も特筆すべきは、モニタリングの効率を1200%向上させて、蝶たちが毎年越冬する重要な木々の個体の活力/ストレス両方の程度を(マルチスペクトル画像を使用して)、個体レベルで同精度で測定し、本数を数え、位置情報を取得し、バイオマス量を定量化したということでしょう。
オオカバマダラの個体数の減少は、殺虫剤や除草剤の過剰使用と、越冬地であるメキシコの森林地帯の違法伐採や森林破壊が原因です。このような生息地を保護するには警戒心と献身性が求められますが、その方法にドローンを導入することで、この途方もない作業は次第に実現可能なものとなります。高解像度の航空データの取得によって、これらの地域の保全を担当する機関は、適切なタイミングで植物衛生上の判断をできるようになり、今後も数百万匹の蝶を毎年迎えられることでしょう。