ドローンによる高精度なデータ取得で桜島火山地域の安全を守る

DJI、中電技術コンサルタントと桜島活火山地域の共同実証実験を実施

By DJI Enterprise DJI Enterprise
10月 25, 2021

広島県広島市に本社を置く中電技術コンサルタントは、建設に関する課題解決を総合的に提案する会社である。その先進技術センターは、洪水や土石流などの災害リスクから社会を守るための技術サービスを提供している。同社が実施した、鹿児島県桜島火山地域における実証実験の取り組みについてお話を伺った。

安心安全のために欠かせない調査をドローンで実施

桜島は、年間に数十回以上もの噴火、爆発を繰り返す国内有数の活火山だ。ひとたび雨が降れば繰り返し土石流が発生してしまう。下流の民家や幹線道路などの安全を確保し、安心できる生活を守るためには、桜島の地形形状などを適切に把握し、土砂の処理などの対応・対策を実施することが欠かせない。

中電技術コンサルタントは、桜島火山地域の防災調査として、 噴火や土石流発生による地形変動量の調査と土石流発生のメカニズム解明のための任務を遂行している。従来から桜島火山地域で、有人ヘリコプターやセスナ機を使った調査を年1回程度の頻度で業務として行ってきた。

中電技術コンサルタント 先進技術センター長兼BIM/CIM プロジェクト室長である荒木義則執行役員は語る。

「航空機による調査は、一度に広範囲を調べることができるのですが、1フライトあたり数百万円の費用がかかりコスト面に課題がありました。また有人の航空機は、調査中に火山噴火に巻き込まれてしまう危険性があることも問題でした。そのため、別の方法を検討する場合は、コストだけでなく安全性の確保が必須と なります。」

そこでドローンによる調査が検討されたが、活火山である桜島特有の制限が課題となった。

「ドローンによる写真測量では通常、計測精度向上のために地上に対空標識を設置することが一般的です。しかし、桜島は火山噴火の危険性があるため、火口から半径2km以内は立ち入り禁止区域となっており、対空標識が設置できません。そこで、RTK 搭載のドローンを用いることで対空標識なしでの計測を検討しました」

桜島写真1

先進技術センター長を務める荒木 義則 執行役員。

先進技術センターは、社内の組織を横断してAIやIoTなどの技術を広めていく役割を担っている。

 

過酷な環境下の条件をクリアした Matrice 300 RTKとZenmuse P1

そこで、今回の実証実験に採用されたのが Matrice 300 RTKだ。 RTKによる計測でどれぐらいの精度が確保できるのかを試すのが実証実験の目的の1つだった。

中電技術コンサルタントでは以前からドローンによる調査自体は行っていたが、対空標識以外にも課題があった。 Mavic 2 Pro、Inspire 2などの製品では飛行時間が20分程度と短く、 桜島の調査における飛行性能として不足していたのだ。

その点、Matrice 300 RTKは飛行時間が長く、高精細カメラ Zenmuse P1を装着した状態で約40分程度の飛行ができる。これによって火山噴火の危険性がある環境でも、フライト数を少なくするなどの効率的な調査が可能となった。

「火口付近は噴火の危険があるため、航空法の規制の最高高度である149mを保って飛ばす必要があります。そのため、高精細な撮影ができる機材が求めらるのです。従来の航空レ ーザー測量の地上解像度20cmに対し、Zenmuse P1は最大4,500 万画素の撮影が可能で、対地高度149mでも1ピクセルあたり 3cmという高い解像度が得られます」

機体選定では、Matrice 300 RTKのほかにも、無人ヘリコプターなども検討されたが、運用コストに優れる Matrice 300 RTKが採用された。そのほかにも、最大8kmの伝送距離*1 や風速15 mという耐風性能、IP 45 の防塵防滴性能*2など備えている点も機体選定のポイントとなった。

桜島写真2

Matrice 300 RTKの高い飛行性能に加えて、Zenmuse P1という高解像度カメラが搭載可能な点が機体選定の鍵となった。

数日で膨大なデータの取得から高精度な3Dモデル作成までを完了

実際の実証実験の現場はどうだったのだろうか。

「やはりさまざまな制限がある環境なので厳しい現場でしたが、実証実験にはスキルの高いパイロットに参加してもらい、DJI JAPANのサポートも得られたため、大きな問題もなく実施できました。結果として2日間で22フライト、約9,000枚の撮影を達成しました」

これらのデータを基に、DJIのマッピングソフトである DJI Terraを使って3次元モデルを作成した。こうしたデータ作成は、基となる画像のデータ量が多くなればなるほど処理に時間がかかるものだが、DJIのソフトウェアによって効率よく作業が行え、わずか1日で完了した*3

出来上がったデータは、計測誤差は精度±20cmという数値目標をクリア。また、桜島の立ち入り禁止区域内の地形や地表の詳細な状況がどのようになっているのかが確認できた。

荒木氏は土砂災害防止の研究者で、公益社団法人砂防学会の会員でもある。今回の実証実験の成果は、砂防学会研究発表会において論文発表している。

「論文の中でも触れていますが、今回得られた解像度の高い画像によって、これまで難しかった、詳細な地形情報と特徴の分析が可能になっています。岩盤の露頭や火山灰の堆積状況、巨礫のサイズなどを確認できるのです。こうした情報は、土石流がどういったメカニズムで発生するのか、どのような箇所が崩れやすいのかを研究するのに役立ちます。これは非常に頼もしいソリューションです」

今回の実証実験では、十分な結果の一方で課題も見つかった。

「現場導入をスムーズにするために、Matrice300 RTKなどの運用に関する、より詳細な情報や講習会、eラ ーニングによる訓練プログラムなどの提供を DJIには期待します。ドローンを安全に飛行させるためにも、初めて導入する企業・利用者の教育研修が重要だと感じています」

中電技術コンサルタントでは、現在20名ほどのドローンパイロットを訓練しているということだ。安全講習、社内の認定制度を設けるなどして教育研修を積み重ねている。

「今後は、コストや機動性に優れたドローンによる計測を、火山噴火や土石流の発生後の初動調査に適用していきたいです。 2つの時期の比較によるヒートマップの作成や土砂変動量の算出などを迅速かつ安価に算出するソリューションを提案していく予定です」

桜島_論文写真

荒木氏が砂防学会で発表した論文では、今回の実証実験で得られたデータの有用性が発表されている。

桜島写真3

中電技術コンサルタントは今回の結果を基に、安全安心な暮らしを守るために、桜島をはじめ日本各地の災害調査をドローンで行なっていくことを目指している。

「桜島でのドローン計測に成功し、計測精度も高い結果が得られたことから、今後も同様の場所や類似の場所において、活用でき ることが確認できた。今後は、火山地域での防災調査(災害状況の把握、地形変動量の調査、土砂移動機構のメカニズム解明)として活用すること、社会インフラ(構造物)の維持管理点検・調査 に活用すること、特にAl機能を使って変状の検知や損傷の評価などに応用していきたい。」

*1 障害物、電波干渉がなく、FCC準拠の場合。

*2 Zenmuse P1の保護投球はIP4X。

*3 DJI Terra の処理速度は、起動するPCの性能に依存します。また、作成したデータを無料で確認できるViewer機能があります。

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Tags: 土木・測量, 公共安全

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