映像のプロからドローンのプロへ

積極的なリサーチで新事業を拡大

By DJI Enterprise DJI Enterprise
8月 31, 2021

前身となるプロダクションナップは、長崎県の老舗の映像制作会社。ドローンの運用は、当然ながら映像制作から始まりましたが、今ではインフラ設備などの点検・調査から測量、農薬散布や物流まで、短期間に事業を加速展開しています。そこには「チャレンジを怠らない」という同社のモットーが生きていました。そして今年7 1 日、株式会社kiipl&nap として拡大し全国展開をスタート。

ドローン事業のスタートから産業利用での事業拡大を想定

NAPドローンチームは、NBC 長崎放送の関連映像制作会社であった株式会社プロダクションナップを中心とする全国チーム。テレビ番組を始め、CM映画等さまざまな映像制作を行っている。映像制作が本業であった同社にとってドローンによる空撮は、言わば当然の流れとも言える。既にドローンを活用した映像実績は、500 作品を超える。

「最初は右も左も分からない状況で、試行錯誤の連続でした。ただし、われわれの大きなアドバンテージとなったのは、映像のプロ集団であったことです。空撮であっても、高品質な映像を撮るためにはどんなカメラセッティングでどう飛ばせばいいのかが分かっていました。ドローンという新しいカメラを手に入れたことで、空撮映像での事業化、作品制作などのアウトプットの方法はすぐに見えました」と、同社ドローン部の入柿雅一 部長は導入当初を振り返る。

入り口こそ得意とする映像制作だったが、現在、同社のドローン事業は、インフラ設備の点検や調査、災害対応、農業のサポートと、映像制作にとどまらず、事業全体の大きな柱となっている。しかもその展開スピードは速い。

「ドローン導入当初から、映像以外の産業用途での運用を考えていました。まだ事例の少ない状況でしたが、映像以外の事業用途がどうなっているのか、独自でリサーチを始めました」

 NAPドローンチームでは、リサーチと実証実験などを行いながら、各所にドローンの利便性を説明して何かあったときに利用してもらえるよう、積極的に営業して回ったという。

「ドローンに置き換えることでメリットが生まれる業務がないかさまざまな業種や社会課題などで探しました。可能性があれば自分たちで企画を立て、積極的に提案しました。各地方自治体も回り、災害時の利用などについても説明しました」

「ドローンの産業利用について徹底的にリサーチし、実際に試しながら、可能性のあることは積極的に営業した」と、入柿雅一 ドローン部 部長。当初から、空撮以外の産業利用を想定して導入した。

積極的に実証実験を行い経験を重ねて営業力も高める

最初の業務運用となったのは災害対応だった。2017 年9月、長崎県大村市の市街地で不発弾が見つかり、住民約1400 人に避難勧告が出された際、現場近辺に人がいないか確認するためドローンが導入されることになった。

「大村市とは災害時のドローン運用について協定を結んでいました。信管が残る不発弾が見つかった危険な現場で人が近づくことができないため、ドローンが活用されることになりました。公的機関に貢献できたことでドローンが役に立つことが証明され、徐々に声がかかるようになってきました」

また、事業として営業していくためには、データ取りなどの実証実験を行うことも重要だという。同社は地域のドローンコンソーシアムにも参加しており、ドローンの産業利用における実証実験にも積極的に参加している。

「ある施設で点検の実証実験を行ったのですが、この建物は従来の手法で点検を実施した様々な記録データが残っていました。このデータとドローンで取得したデータを比較することで、ドローンの得意とする部分などが分かり、営業を行う際にセールスポイントを適切に伝えられるようになりました。この経験は大きかったと思います」

 現在では、九州に限らず全国で点検業務を行っている。2020 年は、北海道や四国で約50 カ所の風力発電用風車の点検を行ったほか、関東地方で鉄塔30 カ所の点検業務なども実施。そのほか、エネルギープラントや鉄橋の点検も受託している。

「もともと点検業務を行っている業者からの依頼が多いです。業務を請け負う際には、ドローンを使った業務のコンサルティングも兼ねるようにしています。点検内容に合わせて、どのような撮影を行うか、どのようなデータを取得するかを提案し、お互いに効率のいい結果が出せるように心がけています」

新しい挑戦となったハウステンボスでの実証実験

現在も、NAPドローンチームの新しい挑戦は続いている。

「長崎を代表するテーマパーク、ハウステンボスの点検業務を実施しました。これはDJI Matrice 300 RTK と、測量用のカメラDJI Zenmuse P1 を組み合わせて実証実験として行いました。遊戯施設での点検は弊社でも初めてのことです」

ハウステンボスは日本最大級の敷地面積があり、ひとつひとつの建造物も大型で複雑な形状をしている。従来の点検作業はすべて人力で行っており、コストもかさむ上、足場が組めないため作業には危険も伴う。それをドローンで撮影してDJI Terra でマッピングすることで、敷地内のどの場所がどうなっているのか、すぐに確認できるようにすることが目的だ。ただし、撮影条件が厳しかったと、NAPドローンチームのカメラマンで、ドローンパイロットを担当している浦 裕樹さんは言う。

年中無休のハウステンボスでは、撮影できる時間が限られていた。「高解像度で効率のいい撮影が可能なZenmuse P1 が威力を発揮した」と、パイロットの浦 裕樹さん。

「ハウステンボスの点検は、時間制限が厳しいものでした。原則として1年365 日、休園日がありません。つまり、ドローンを使った点検業務が実施できるのは、日が昇ってから開園時間までの間だけです。実施したのが冬場だったので、実質的なフライト時間は1時間ほどしかありませんでした」

この実証実験では、2つの目的で撮影を行った。ひとつは園内の広域の撮影で、もうひとつは園内の特定の建造物のモデリングデータの作成だ。Zenmuse P1 は、特に広域での撮影で威力を発揮したという。

「時間が限られていたため、飛行計画を立てる時点で従来よりも高い高度で飛ばないと間に合わないことが分かっていました。Zenmuse P1 での撮影では、高い解像度とスマートオブリークキャプチャーなどの撮影効率の良い機能を組み合わせることで、時間をコンパクトにしながらも十分な解像度で撮影できました」

クライアントの反応も上々だったそうだ。

「ハウステンボス技術センターの方からは『すごい、驚いた』という声をいただきました。モデリングデータなら見たい角度で確認できるのが、大きなメリットだというお話でした。また、施設内に見た目が同じような場所が大量にあるので、従来の写真を使った点検では、場所を特定するのが大変でした。DJI Terra を使えば、『この場所のこの建物にあるこの柱』といった指示が簡単にできるのが非常に便利です」

従来の点検作業は人力でやっていたため、撮影データの管理や現場での再確認の作業が大変だったが、DJI Terra を使った点検であれば、撮影データの管理や場所の特定が容易になる。

点検業務では、対象物や撮影条件によって異なるフローやノウハウが必要になる。課題にぶつかっても乗り越え、事業を広げていくため、NAPドローンチームでは「とにかく自分たちでやってみる」という考えで業務に取り組んでいる。この考えが、同社のドローン事業の展開を支えている。

「業務に取り組む上でわれわれが大切にしているのは『チャレンジを怠らない』ということです。何か壁にぶつかったときでも簡単に『できない』とは言いません。まず、なぜできないのか原因を探し、それを解決するためには何が必要なのか、現場で見つけて対処するようにスタッフには指導しています。これからも常にアップデートしていく姿勢で取り組んでいきます」

 高い運用技術を駆使する株式会社kiipl&nap NAP ドローンチームは、今後さらに全国展開を加速させるという。今期は、火力・水力施設の点検の事案もあるといい、さらなる進化に期待が高まる。

 

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Tags: 土木・測量

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