東洋製罐株式会社(とうようせいかん)は、金属缶やペットボトル等の容器で世界有数のメーカーである。今回、自社の老朽化した倉庫を修理するにあたり、ドローンで建物の点検と、更に応急処置まで行うという実証実験について、お話を伺った。
多くの費用を掛けず、老朽化した建物の点検・修理をする方法として、ドローンの導入を検討用
東洋製罐テクニカルセンター技術開発統括室総務グループの肥塚氏は、「弊社テクニカルセンターに隣接する鶴見ビルは、弊社が買い取った築30 年を超える古いビルです。建物全体の老朽化から取壊しを予定しており、それまでの間、書類や資材等の一時的な保管倉庫として有効活用しているが、屋根の老朽化が気になっていた」と話す。また、「倉庫として使う以上、保管品の濡れやカビの発生、最悪の場合、電気火災の原因になるため、雨漏りの発生は避けたい考えです。しかし取壊し予定のビルに多額の修理費用をかけることは難しく、様子を見ているのが現状です」と語る。
また、同社テクニカルセンター技術開発統括室の荒木氏は、今回の実証実験の背景について、以下のように語る。
「私たちは自社の容器技術を活かしドローン用スプレー缶噴射装置SABOT-3を開発しました。SABOT-3は、ドローンにスプレー缶を搭載し遠隔で噴射することが可能なペイロードです。ドローンに実際の作業をする力を与えることで、厳しいコスト削減が求められる現場のニーズに応える可能性を秘めています。そこで今回、足場や高所作業を行わずにドローンで、この弊社ビルの点検と、さらに応急処置まで行うという実証実験を行いました」。
東洋製罐テクニカルセンターに隣接する『鶴見ビル』は、築30 年を超える古いビルで、建物全体の老朽化が進んでおり、将来取り壊しを予定している。
Zenmuse H20シリーズを使い、わずか3分程度で屋根全体の撮影することに成功
実証実験では、屋根の状況を確認するためにMartice 300 RTKとZenmuse H20Tを用いて撮影。約750平米の屋根の写真を、わずか3分程度で撮影。Zenmuse H20Tにはサーマルカメラが搭載され、可視光撮影の他にサーマルイメージも取得。まず赤外線画像では、雨水が堆積している低温部は見られなかったが、望遠カメラ画像では、ボルトキャップが完全に損失しているボルトと、屋根の棟付近の溶接部にも穴のような腐食が確認できた。
屋根の大部分が老朽化しており、倉庫内への雨漏りが心配だが、取壊しを予定しているため、修理に多額の費用をかけることが難しい。
不良箇所の確認に、 SABOT-3で散水調査を実施
不良箇所の確認は、実際に水を吹きつけて温度変化を確認する散水調査が有効で、Martice 300 RTKのペイロードをSABOT-3に取替え、発見した不良箇所への散水調査を実施した。また、持続的な噴射を行うため増槽も使用した。
機体: Matrice 300 RTK ( 今回使用機種) / Matrice 350 RTK ペイロード: SABOT-3 / SABOT-3 増槽( 今回使用機種)
小さなボルトに高い精度で吹きつけることが可能に
オペレーションでは、小さな目標に対して連続的に水を噴射する必要があった。SABOT-3 は、噴射位置の予測機能があり、狙った位置に対してピンポイントで噴射が可能。小さなボルトに対しても安定した高い精度で水を吹き付けることが可能だった。
ボルト部は問題無かったが、溶接部の腐食からは水の浸入がハッキリと確認できた。そこで、ボルト部の予防保全、溶接部の応急処置で、タッチアップ塗料を吹付ける簡易補修ステップに移った。
一般的な外部用塗料と同程度の耐候性を持つため、タッチアップ目的の塗装はもちろんのこと、ピンホール等に対しては厚塗りすることで雨漏りの低減効果も期待できる。補修作業を開始する前に、先ほど散水した水にドローンのダウンウォッシュを当てて、Zenmuse H20T により乾燥したことを確認。ペイロードを再びSABOT-3 に取替え、タッチアップ塗料のスプレー缶を取付けた。
今回の作業中、時々強い風が吹いて緊張する場面があったが、SABOT-3 は、風向きや強さを推定して、画面に表示する機能があり、落ち着いて風が止むタイミングを掴むことができた。また、噴射中に風にあおられた時は、姿勢変化を検知して噴射をロックするセーフティー機能があり、安心して作業ができた。
今回、新たに薬液メーカーと共同でSABOT 用にタッチアップ塗料を開発。壁面に噴射しても垂れにくい粘度を持ちながらもSABOT で安定した噴射が可能。厚塗りが可能で乾燥後はゴムのような柔軟性を持つ。
今回の検証を経て、ドローンの有効性を実感
実証実験では、無事にドローンのみで、屋根の点検から散水による調査、更に簡易補修までを完結させるという作業に成功し、従来の方法に比べ、安全で短時間に、少ない資材で作業が可能なことを示すことができた。また、検証について肥塚氏は、「短時間で終えて頂き、ありがとうございました。風が強い中でもちゃんと補修でき、非常に良かったです。今後、台風の後等に、気軽にお願いできるかなと思います。ありがとうございました」と話す。
検証をサポートした株式会社セキドの大岡氏は、「本来であれば、足場を組むところから、数日の作業が必要でしたが、SABOT-3 とMartice 300 RTK で1 日かからず終えることができました。作業員が高所作業をする必要もなく、安全に終えられたことも大きなメリットです。非常に有用なソリューションであるということが分かりました」と語る。また、同社の内野氏も、「午後からは風が吹いてドローンが揺れたり、結構難しい場面があったが、SABOT-3 による的確な標準で、正確な簡易補修ができたと思います」と話す。最後に、東洋製罐テクニカルセンター荒木氏は「今後も、SABOT-3 を用いた新たな活用方法を皆様にご提案してまいります」と述べている。
SABOT-3 とMartice 300 RTK を使用し、作業員が高所作業することなく安全に終えることができ、非常に有用なソリューションであると大岡氏。