新機能である3プロペラ緊急着陸モードを初めて目にする時、印象的で何か不思議なものを見たと感じるかもしれません。このモードになると、ドローンは急速回転(1秒間に2~3回転の速さで回転)します。つまり、ドローン全体が地面に着くまで回転するのです。
そして、その回転が救済措置となるわけです。急速な回転により、モーターはドローンの下で推力をさらに均等に分散させ、比較的安定した状態を維持するようになります。機能停止したモーターをつけたアームは長く定位置に留まらないため、ドローンはそのアームで降下し始めることはできません。実際、回転が始まると、Matrice 300 RTKはジャイロスコープやフライホイールのようになります。
かなり異常に見えますが、実はこれが驚くべき機能なのです。Matrice 300 RTKは、これまでのクアッドコプターでは不可能とされてきたことを可能にしました。3つのモーターで飛行することです。
素晴らしいでしょう?では、映像をご覧ください。
「3プロペラ緊急着陸モード」
クワッドコプターを使ったことがある人は、厳しい真実をご存知でしょう。モーターが1つでも機能しなくなった時、ドローンは落下します。しかも、ひらひらとゆっくりと落ちるのではありません。ドローンは、重力が地面に物体を引きつける速さで急速に落ちていきます。このような落下は最終的に墜落し、無惨に終わります。
普段は起こらないものの、実際に落下破損リスクがあるからこそ、Matrice 600プラットフォームのようなヘキサコプターを選ぶ人が常にいるのです。6つのモーターのうち1つが故障した場合でも、経験を積んだ操縦者であれば、ドローンを安全に地上へ戻すことができるからです。しかし、モーターが4つしかない時は無理です。どんなに優秀なパイロットでも、この場合、ドローンを救済することはできません。
「通常、1つのプロペラが推力を失うと、残りの3つのプロペラはドローンに十分な推力を作ることができません。」と、DJIのシニアプロダクトソリューションマネージャーであるFreda Peng 氏は説明します。
「3つのプロペラでは、ドローンを安定飛行の状態に保てません。」
自作機や低価格の汎用クワッドコプターであれば、この種のリスクが受け入れられることもありますが、業務用ドローンの世界ではあり得ません。H20シリーズ、LiDAR、高出力光学ズームのようなハイエンドセンサーを搭載したドローンを使う場合は、リスクははるかに高くなります。このようなドローンは、空間精度を高めるためにリアルタイムキネティック(RTK)技術など、高価な追加機能を備えていることも少なくありません。業務用ドローンはまた、産業現場で絶えず使われるため、ダウンタイムが許されません。
低い故障率
もちろん、DJI製品は長持ちするように作られています。そして、推進システムが誤作動する可能性は極めて低いです。実際、DJIエンジニアがモーターやESCが故障する確率を計算した結果は約0.01%でした。これは非常に低い確率です。
それでも故障は起こります。特に、産業用途では過酷な環境下でドローンを操作することが多く、そのような状況ではなおさらです。そこでDJIは、新しいMatrice 300 RTKプラットフォームに重要な機能を加えることが必要だと判断しました。Matrice 300 RTKは、ソフトウェアを飛行制御ボードと組み合わせて使用することにより、救済機能が備わります。
仕組み
どのドローンでも、フライトコントローラーは常に機能しています。その重要な機能の一つは、飛行を安定させることです。ドローンを水平に維持していることを搭載センサーが絶えず確認し、また全てのモーターのRPM(回転数)を監視することによって、飛行を安定させています。また、ESC(電子速度コントローラー)と連携して、モーターを継続的に加速・減速させることにより、ドローンが常に空中でしっかりと安定するよう調整します。この仕組みでは、1秒間に数百回のシステムチェックが行われ、微調整が絶え間なく行われています。
Matrice 300 RTKでは、フライトコントローラーとその他の専用ソフトウェアアルゴリズムが、DJIクワッドコプターには今までなかった全く新しいことを実現します。モーターが動力を失ったり、安定を保てなくなる速度まで回転が落ちた場合に、フライトコントローラーがその後の対応を引き継ぐことができるのです。この仕組みにより、ドローンは、無事に着地できるよう設計された緊急着陸モードに入るか、あるいは、パイロットがMatrice 300 RTKを着地に安全な場所まで手動で操作することができます。
迅速なファーストレスポンダー
このハードウェアとソフトウェアのパッケージは、ある意味、ファーストレスポンダーとして考えることができます。飛行制御ボードは、モーターの異常を100ミリ秒以内に検出することができます。異常な誤検出を回避するために、さらに追加の100ミリ秒の猶予時間を持って、3プロペラ緊急着陸モードに入るよう設計されています。200ミリ秒を超えると、ドローンの角速度が高くなりすぎて制御できなくなります。これは、3プロペラ緊急着陸を制御する上で大きな障害です。Marice 300 RTKのアップグレードされた飛行制御アルゴリズムでは、ソフトウェアが作動し、ドローンが緊急措置の回転をし始めるまでの時間差をほぼ無くしました。
当然のことながら、その回転エネルギーの結果として、ドリフトが生じます。Matrice 300 RTKは、着地する前に30 mほどドリフトする可能性があります。しかし、実際には回転しながら着地する訳ではありません。Matrice 300 RTKが地面、それもできれば草地のような柔らかいところに近づいてきたら、パイロットは専用のジョイスティックコマンドを使って推進力を切ります。
「私たちは、テストと最適化を続けていきます。」とPeng氏は語ります。
「よって、エンジニアはこの機能を改良し続けていきます。」
まずはMatrice 300 RTK
DJIのFreda Peng氏によると、この機能は最初からMatrice 300 RTKのために検討されてきました。DJIとしては、技術的な挑戦ではありましたが、お客様、特にハイエンドのエンタープライズモデルのユーザーには歓迎される機能だと分かっていました。
現時点では、この機能はMatrice 300 RTKにおいてのみ利用できます。Peng氏は、将来他のDJI製品に搭載される可能性はあるものの、今はMatrice 300 RTKにフォーカスしていると述べています。
DJIは、この仕組みの詳細を説明したホワイトペーパーを作成しました。こちらからご覧いただけます。
驚異的
この機能が、アイデアから実際の技術に変わっていったことは驚かれると思います。この機能が実際にMatrice 300 RTKを救ったという報告があれば、さらに驚くべきことでしょう。
しかし、そのような深刻な問題が起きるといった稀なケースに対して、この自律機能は事態を収拾してくれるのです。
M300 RTKに搭載された安全機能についてはこちらをご覧ください。