Shell社のドローンプログラムで得た教訓

ワールドクラスのドローンプログラムからの洞察

By DJI Enterprise DJI Enterprise
11月 2, 2021

Shell社は、オランダに本社を置く石油&ガスの多国籍巨大企業で、70以上の国々で事業を展開しています。2020年の収益では、世界第5位の大企業です。

Shellは、2012年にドローン技術の利用を開始しました。以来、「飛行ロボット」は同社のグローバル資産ポートフォリオ全体で確立された検査ツールとなり、特に石油&ガスに関連した、アクセスが困難な場所や危険な環境で、データを収集するための費用対効果に優れた安全な方法となっています。

ドローン技術で得られるメリットと用途の範囲が広がり、信頼性が高まるにつれ、Shellのドローンプログラムも後に続いています。この業界では、資産の検査関連の作業をサードパーティが実施するのが一般的です。全体的には、Shellのドローンミッションはそのパターンに従っています。しかし、ShellのDeer Park Manufacturing Complexなど、特定の場所では、会社が自社の機材を管理しています。

Shellのドローン技術採用の監督を担当しているのは、ロボット工学テーマリードのAdam Serblowski氏です。

M300 flying over refinery

ドローンプログラムの開発

Shellは、その業務全体でロボット工学ソリューションを開発し、展開しています。ドローンでは、調査に重点が置かれています。DJIのソリューションでは、上空からの洞察が得られ、エンジニアリングチームが資産と施設の状態を監視し、維持するのに役立っています。

 

Serblowski氏は、Shellでのドローンの導入は、2012年にフレアチップの検査に重点を置いて小規模に始まった、と説明します。

「そこに至るまでも長い時間がかかりました」とSerblowski氏は語ります。「資産との絡みも多く、ドローンが風に流されたり墜落したりする懸念もありました。しかし、最初の調査が実施されたところ、頭を悩ませずに再現できるものだとわかりました。リスクは極めて低く、人を上らせて撮影する写真と同等以上のものが得られます」

M300 high inspection

安全性と運用の向上が明らかになり、そこからプログラムが開発されました。

最初の数年間、Shellのドローン検査は単純でした。ドローンを使わなければ、スタッフが危険を冒して高所で作業することを求められていたであろう画像の収集です。

「その後、地理情報学領域での技術の発達を目にするようになりました」とSerblowski氏は言います。Shellのドローンプログラムは、調査とオルソマッピングを加えて発展しました。

米テキサス州ディアパークでの運用が基準になっています。2016年以降、そこのドローンチームは先駆となって、世界中にある会社の拠点のための標準的な運用手順を開発しました。チーフドローンパイロットJohn McClain氏とともに、Serblowski氏は新しいハードウェアとアプリケーションを導入し、ドローンが定期的な検査と事故対応を組み合わせてサポートできるようにしました。

新しいのは、Shellが実際にドローンを所有し、運用するというアイデアです。

「Shellのために行うドローンミッションの大部分は、引き続きサードパーティが実施しています。しかし、作業範囲の拡大に合わせて、固定資産の一部については、ドローンを社内に持ち込む方が理にかなうようになりました」とSerblowski氏は述べています。

この移行は、Shellが具体的に指示していることではありません。国や事業単位が異なれば、推進要因も異なるため、社内に物事を取り込むことは、ある領域や分野では意味があっても他では意味がない場合があります。

「サードパーティが運用しても当社が運用しても、コンセプトはまったく同じです。多数の個々の資産で、ドローンを活かせる範囲がたくさんあることが分かっています。日常業務にドローンを埋め込むことは、多様な方法でパフォーマンスを向上する方法になります」

リスク回避型の石油&ガス業界でドローン技術を採用

何年もの間、ドローン技術は驚異的な安全性の記録を残しています。これは、ハードウェアとソフトウェアの進歩による部分もあります。ADS-B受信機と最新の感知および回避技術は、DJIの企業プラットフォームでは標準となっています。

しかし、ドローンは空を飛ぶものであるため、ある程度の危険はあります。「採用に向けた課題という点では、最大のポイントは保守主義に行き着きます。業界として、私たちがリスク回避型であることには理由があります。何か問題が起きた場合、その結果は非常に重大なものになる可能性があります」とSerblowski氏は言います。

その保守主義は、物事の進め方にも反映されます。プロセスには長い歴史があり、新しい技術がそれを打破するには時間と努力が必要です。 

M300 and refinery

「新しい技術を持ち込むときは、いつでもそれなりのリスクが伴います。その技術を採用して、その危険を最初に負うよう人々を説得するのは大変な仕事です。どれほど安全かを人々に示すための下準備が絶対に必要です」

Serblowski氏にとって、これは、新しいアプリケーションが実用でどのように役立つかについて、全ての段階を文書化することが重要であることを強調します。

「初期には、標準やプロセスの点で頼りになるサポートメカニズムがありません。最初の展開を完了すると、サポートメカニズムの蓄積を開始でき、次の人も確認するのが容易になります。安全に実行できるという、エビデンスとプロセスがあるからです」

Serblowski氏が挙げる2つ目の課題は、国境にまたがるドローンプログラムを開発している組織にのみ関係するものです。 

「他の技術ではなく、ドローンを使うときに対処する必要がある特有の課題に、国ごとに規制が異なる点があります。飛ばすのには適しているものの、現地の規制のために単純な利用事例すら開発するのが難しい国もあります」

サードパーティとのドローンプログラム構築

石油&ガス業界は、サービス業界が牽引しています。Shellの施設では、大部分の検査と保守作業は、サードパーティ企業が実施しています。信頼できる外部パートナーと協力することは、ドローンのメリットを現場にもたらし、採用プロセスを早めるための1つの方法だということです。

「それこそがモデルなので、ドローン運用を社内に持ち込むことは実は例外的なことなのです。通常行うことではありません。しかし、新しい技術で、非常に多くの境界にまたがるので、社内に持ち込む機会があるのです。それが理にかなっている場合もあります」とSerblowski氏は言います。 

社内のドローンチームを結成することは、Shellが全社的に指示していることではありません。サードパーティにタスクを実施してもらうことにはまだ潜在的なメリットがあるからです。

M300 next to flare

しかし、Serblowski氏は、サービスプロバイダーとは無関係に、「基本的な機材、ツールとコンセプトは、まったく同じです」と指摘します。

Shellのパイロットと会社を代表して働いている人たちは、運用と得られるデータが一貫性を保てるように、実施されている確立されたプロセスに従って仕事をします。

それに加えて、Shellのように大きな組織であれば、通常、ドローンの採用プロセスの間に活用できる社内の専門家の助言に頼ることができます。

Serblowski氏は、Shell Aircraftなどの事業単位では、プロセスを実施して、採用するサードパーティが最も優れたものであるようにできる、と説明しています。

「社内には、機体操作に関するShellグループの要件を掲載したドキュメントがあり、それで全てのドローンベンダーがカバーされています。ドローンを飛ばす前に、能力のあるベンダーであるという非常に高いレベルでの信頼があるのです」

ドローンを飛ばす方法論を超えて、そうした基準はキャプチャされるデータにも及びます。 

「何を望んでいるかはっきりと分かっているので、必要な画像を撮影することができます。具体的なデータ基準が見え始めているため、キャプチャする内容の一貫性は確実に向上しています」

ドローンプログラム マネージャーの重要性

「飛行ロボット」が複雑な作業環境にもたらす全ての利点を得るため、組織は責任者に指揮権を持たせてプログラムを推進させる必要があります。

ドローンプログラム マネージャーの役割には、コミュニケーションと知識管理の両方があります。

「相談しやすい人が必要とされます」とSerblowski氏は言います。ドキュメントを送り、必要とされる情報が得られるようにポータルを維持することは重要です。しかし、特定の状況にある人々に話しかけ、ドキュメントを作成し、さまざまな展開から学んだ教訓を活かし、それを繰り返していくこと…それが本当に重要なことです」

Shell Pilots

Serblowski氏は、特定の現場でのビジネスの推進要因を理解することと並んで、コミュニケーションがドローンプログラム マネージャーに最も必要なスキルである、と述べています。

「必ずしもそのプロセスを理解する必要があるとは限りません」とSerblowski氏は言います。「私はそれぞれの精油所が持つ個性的な違いを説明することはできません。しかし、それぞれが抱えている問題と、日々の推進力となっているのが何かは理解できます。それぞれの限界を理解することで、ソリューションがどのように機能して役に立つかをうまく説明できます」

新しいソリューションを提示する方法でも影響を与えることができます。 

「間違った方法でソリューションを売り込みに来たら、メリットを理解する機会を得る前に多くの人が関心を失います」

より広い視野の一部としてのドローン

ドローンは、よりスマートで迅速な意思決定を支援することに重点を置いている、Shellの広範なデジタル戦略の一部を成しています。

「当社では、ドローンを作業に携わる人員を必要以上に危険にさらすことなく、情報収集を向上する汎用データ収集ツールと見ています。人々が危険な目に合わないようにすることができ、必要なデータを収集するために、危険な可能性があるところに行かせる必要がありません」とSerblowski氏は言います。

今後数カ月から数年の間に、ドローン技術が非常に特殊なタスクだけでなく、Shellのより多くの事業所で日常的に使われるようになることを期待しています。

「この10年間で、ドローンはアドホックツールとしての価値が大いにあることを実証してきました。現在では、特殊なツールではなく、日常的なツールとして活用する方法を模索しています」

ドローンの使用が常態化すれば、その技術は日常的なタスクリストに組み込まれます。

「その時には、変化が目に見えるようになります」とSerblowski氏は言います。

「日常的な使用で採用されるようになるでしょう。当社の施設で、普通にドローンが飛んでいて、今日より幅広い活動をサポートしているのを目にするようになります。こうした多くの活動を集約することで、単独ではドローン検査を支持するものにならなくても、これらのプログラムを拡大し続ける十分に正当な理由になります」

Share on Social Media:

Tags: 石油・ガス

ニュースレターにご登録いただくと、製品の最新情報やアップデート、電子書籍などをお届けいたします。

DJI Enterprise
著者について DJI Enterprise

最新の記事

土木・測量 | 建設 | 点検

DJI Matrice 4シリーズの主な特長

DJI Matrice 4シリーズは、革新的なAI、改善された安全機能、高い精度により、ドローンの飛行操作がこれまで以上に安全で信頼性の高いものになります。このシリーズには、DJI Matrice 4TとDJI Matrice 4Eという2種類のモデルがあり、さまざまな業界のニーズに合わせてカスタマイズされています。DJI Matrice...
もっと読む

公共安全 | 点検

ドローンドック: 商用セキュリティの未来

 ドローンやロボットの遠隔操作と自動飛行は、イノベーションを通じ、世界的に事業運営が刷新されています。ドローンドックは、ドローン イン ア ボックス(Drone in a Box:DiaB)システムとも呼ばれており、sUAS(小型無人航空機システム)遠隔操作の最先端分野です。遠隔からの起動、飛行、監視機能を備えるため、DJI Dock...
もっと読む

土木・測量 | メンテナンス | 公共安全

ドローンによる外壁調査の工数削減と 解析精度の向上

 東京都に本社を置くドローン・フロンティアは、ドローンを使った点検業務を専門としており、赤外線カメラを搭載したドローンと、ロープアクセス法による打診調査を併用し調査を行っている。建築基準法が改正され、打診点検の他に、赤外線カメラをドローンに搭載した調査が認められ、目視では捉えきれない外壁の内側の状況や変化の調査が可能となった。今回は同社が実施した外壁調査における現場に同行し、お話を伺った。
もっと読む

公共安全

赤外線カメラ「DJI Mavic 3 Thermal」による熊の農作物被害対策の検証

  近年、害獣被害が増加傾向にある中、株式会社システムファイブと秋田スカイテック株式会社は共同で、農作物被害対策の検証をした。現場では、DJIコンシューマー機材を対策用に使用していたが、より迅速な探索と声による威嚇により被害を抑えられないかを検証した。今回は、DJI産業機の赤外線カメラ搭載ドローン「DJI Mavic 3 Thermal」と「Matrice 350 RTK」にDJI...
もっと読む